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「中学受験は将来の収入に影響しない」という調査の元論文を読んで、中学受験のない地方出身者が思うこと

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先日、中学受験の経験は将来の収入に影響しないという朝日新聞の記事が話題になっていました。

私は地方の出身で、中学受験というもの自体がほぼ存在しない環境で育ちました。大学から東京に来て、首都圏出身の人の多くが中学受験をしていたことに驚いた側の人間です。

記事の見出しだけだと中学受験に意味がないように読めてしまうので、元の論文も読んでみました。まず論文に何が書かれているのかをまとめて、そのあとに中学受験のない地方から見て思うことを書いておきます。

元の記事と論文に書かれていること

まずは記事と論文に何が書かれているのかを、意見を入れずにまとめておきます。

朝日新聞の記事

東京未来大学の大橋恵教授(社会心理学)らが、2022年に25〜39歳の中学受験経験者538人を調べたものです。大学進学率は国の統計と比べて明らかに高かった一方で、収入は男性では平均と大きな差がなく、女性はやや高い傾向があったとされています。女性については、受験経験そのものではなく、未婚で正社員として働いている割合が高いことが影響した可能性がある、とのことでした。

元になっている論文は2本あります。

論文1:2024年(学歴・生活程度・収入の比較)

Cogent Educationという英語の学術誌に載った論文で、収入の話はこちらです。

何を調べたか:受験が必要な中学校(私立・国立・公立中高一貫)に進んだ人は、学歴や生活程度、収入が高いのかどうか。

誰に聞いたか:2022年12月、調査会社のモニターへのオンライン調査。首都圏(東京・千葉・埼玉・神奈川)か関西圏(大阪・京都・兵庫)に住み、12歳以上の子どもがいない、中学受験をして私立・国立などに進学した25〜39歳の450人。

何と比べたか:学歴と収入は、内閣府が2020年に行った別の調査の回答者のうち、同じ地域・同じ年齢で、12歳以上の子どもがいない901人と比べています。生活程度は、内閣府の2022年の世論調査の30代と比べています(こちらは年齢だけそろえてあり、地域はそろっていません)。

結果:学歴は高く、とくに女性で差が大きい。生活程度も高い。収入は、男性では統計的に意味のある差とは言えず、女性では高かったという結果です。また回答者は未婚の人が61.8%で、比較相手(男性39.9%、女性31.0%)より多く、父親の76.1%が大卒以上と、一般より学歴の高い家庭が多い結果でした。

論文には年収の分布の表が載っています。平均額は書かれていないので、表から私が概算すると次のとおりです。男性は比較相手が平均474万円くらい、この調査が505万円くらいで、30万円ほどの差があります。年収800万円以上の人の割合も8.3%と14.1%で、この調査のほうが多くなっています。ただし男性は205人と人数が少なく、統計の検定では偶然の範囲を超えた差とは言えない、という判定でした。

女性は比較相手が平均215万円くらい、この調査が374万円くらいで、差は160万円ほどです。年収100万円未満の人の割合も、比較相手の48.4%に対してこの調査は20.4%でした。

論文の解釈と結論:女性の収入が高いのは、未婚の人が多いことや、結婚後に仕事を辞めたり減らしたりする日本の慣習、あるいは女子校で自立心やキャリア志向が育つことが関係しているかもしれない、としています。未婚が多いのも、学歴が高いぶん結婚が遅く、39歳までを対象にしたからそう見えただけかもしれない、とも書かれています。全体としては「中学受験は高い学歴を得ることにはつながるかもしれないが、収入や生活水準への影響ははっきりしない」とまとめられていて、大学などの最終学歴の影響に比べれば中学受験の影響は比較的小さいだろう、としています。

論文が挙げている限界:中学受験をしたことがない人たちと直接比べたのではなく、公的機関の調査データと比べたので、その後の学校など、さまざまな要因を統制できていない。収入や生活程度は自己申告である。もともとの家庭の経済力が影響している可能性もあるので、結果は慎重に解釈すべき。

論文2:2026年(本人が振り返る長所と短所)

教育心理学研究という日本の学術誌に載った論文で、同じ調査のデータを使っています。朝日新聞の記事にある538人という数字はこちらです。

何を調べたか:中学受験を経験した本人が、大人になってから受験をどう振り返っているか。こちらは最終的に公立中学に進んだ人(16.4%)も含めています。

結果:良い影響としては「いい友人ができた」「人間として成長できた」「レベルの高い教育を受けられた」、悪い影響としては「友達と遊ぶ時間が足りなかった」「無気力になった」「つらかった」などが挙がっています。第1志望に受かった人ほど良い影響を強く感じていて、第2志望以下や不合格だった人ほど「無気力になった」「非社交的になった」と感じやすい、という結果でした。自由回答では、悪い影響は友人関係に集中していて、地元の友達が減ったという声が多かったそうです。

論文が挙げている限界:10年以上前のことを振り返って答えているので記憶が変わっている可能性がある。中学受験をしなかった人との比較がない。地域の違いを十分に考慮できていない。

論文を読んで気になったところ

比べている相手は「中学受験をしなかった人」ではない

一番気になったのはここです。論文1は同じ地域・同じ年齢の人と比べていますが、その相手は中学受験をしなかった人ではなく、その地域・その年代の一般の人です。当然、その中には中学受験をした人も含まれています。論文自身も限界の1つ目に挙げていますが、これで「中学受験の影響」を測るのは難しいと思います。

家庭の違いが区別できていない

それから、回答者の父親の4人に3人が大卒以上というのも見逃せません。中学受験をする家庭はもともと学歴や経済力が高いことが多いので、受験の効果なのか、家庭の効果なのかは、この調査からは区別できないと思います。

女性の収入と未婚率の話

記事では女性の収入が高いのは未婚で正社員の人が多いから、という話になっていますが、論文を読むと、未婚が多いのは結婚が遅いだけかもしれない、女子校の影響かもしれない、と複数の解釈が並んでいるだけです。受験経験と未婚と収入が実際にどう関係しているのかは、分からないというのが正直なところだと思います。

「影響ない」ではなく「はっきりしない」

論文の結論は、収入や生活水準への影響ははっきりしない、でした。男性についても、30万円くらいの差はあるものの、人数が少なくて統計的に差があるとは言えなかった、というのが実際のところです。なので「中学受験は収入に影響しない」ことが分かったというより、この調査の方法と人数では、男性の収入に差があるとは言い切れなかったくらいに受け取るのがよさそうです。見出しはだいぶキャッチーに寄せているなという印象でした。

むしろ論文2の、第1志望に受かったかどうかで受験の受け止め方が大きく変わるという話や、地元の友達が減ったという話のほうが、これから中学受験を考える人には参考になると思います。

一般的に言われている中学受験のメリット・デメリット

論文から少し離れて、中学受験について一般的に言われていることも整理しておきます。塾や教育系のサイトでよく挙げられているものと、公的な統計の数字です。

メリットとして言われていること
  • 中高6年間の一貫教育で、高校受験がない
  • 先取り学習で高校2年までに高校3年の範囲を終え、高3を大学受験の対策にあてる学校が多い
  • 学力や価値観の近い友人ができやすい(論文2でも、良い影響のひとつとして挙がっている)
  • 高校受験がないので、部活や好きなことに6年間打ち込みやすい
  • 校風や設備、教育方針で学校を選べる
デメリットとして言われていること
  • 費用:私立中学の学習費は年間約156万円で、公立中学の約54万円の約2.9倍。3年間では約467万円と約163万円(文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」)。これに加えて、中学受験の塾代が3年間で200万〜300万円ほどかかると言われる
  • 小学校高学年の、友達と遊ぶ時間や習い事の時間が削られる
  • 塾の送迎やスケジュール管理など、親の負担が大きい
  • 地元の友達とのつながりが薄くなる(論文2でも、自由回答の悪い影響は友人関係の話が多かった)
  • 高校受験がないぶん、中だるみしやすい
  • 第1志望に落ちると、その後の受け止め方に影響することがある(論文2)

ちなみに同じ統計で、公立中学でも3年生の塾代などの学校外活動費は年間約45万円で、学年別ではここが一番高くなっています。公立に進んでも、高校受験のタイミングでまとまったお金がかかるということです。

中学受験のない地方から見ると

そもそも中学受験がない

私の地元では、中学受験自体がほぼ存在しませんでした。一応国立の附属中学はありましたが、学年に一人受けるかどうかというレベルで、ほぼ全員が高校受験からスタートです。

論文によると、私立・国立の中学校に進学する子どもは全国平均で8.7%程度ですが、東京都では26.3%です。私の地元の感覚からすると、東京の4人に1人というのはかなり驚きの数字です。

地方トップ校は高校で一気に進度が上がる

私は地方のトップ進学校に通っていて、東京や大阪の大学に進学した人もそれなりに多くいました。私もその一人です。

地方のトップ校に入るような人たちにとって、中学の勉強は基本的に簡単です。一部の努力家を除けば、高校受験のためにそこまで勉強しなくてもいい環境なんですよね。

ただ、高校に入ってからは3年間で3年分のカリキュラムをやるわけではなく、2年ちょっとで終わらせて、残りを大学受験の対策にあてる形になります。なので高校に入ってから一気に進度が早くなって驚いた記憶があります。中高一貫校が6年分を5年に縮めるのとは、わけが違います。

勉強するのがダサいという空気

それから、地方の中学はどうしてもヤンキー至上主義というか、オラオラしている人が偉くて、勉強するのは変な人という感覚が強かったです。

私も世渡りのためにそのあたりの人たちとはうまくやっていましたが、勉強をまじめにやっているわけでもないのに、頭がいいというだけで変な目で見られる環境でした。

私自身の場合

小学校ではトップクラスでしたが、中学に入ると人数も増えるので、それなりに上位ではあったものの最初からトップではありませんでした。

もともと勉強をするタイプではなく、勉強しなくてもだいたい理解できていたので、中1で平均90点くらいだったのをそのまま3年生まで維持していたら、勝手に順位が上がっていって、最終的にトップクラスになっていたというだけです。

ちなみにこれも、自分が中学で伸びたわけではないと思っています。小学校から中学の初めまではついていけていた人たちが、だんだん脱落していって、相対的に順位が上がっただけなんじゃないかなと。

逆に言うと、努力の仕方を知らないまま、しかも中学の「勉強するのはダサい」という空気をまともに受けてしまっていたので、高校に入ってから苦労して、ずっと低空飛行でした。。。

それでも中学受験には一定のメリットがあると思う

東京に来て、首都圏出身の人が中学受験をしているのを見たときに、大学受験を考えると中学受験はメリットが多いと感じました。

6年間でカリキュラムを組めること、勉強するのが当たり前の環境にいられること。地方の公立で、高校に入ってから慌てて進度についていった身からすると、これは大きいと思います。

一方で、6年間ずっと同じ環境にいることには、メリットもデメリットもあると思っています。論文で地元の友達が減ったという声が多かったのも、その一つでしょう。

それに、中学受験をする人がみんな成績がよくて上位の大学を目指しているわけではありません。学校の設備や校風で選ぶ家庭もあるので、収入に影響しない人が多いのはある意味当然だとも思います。

あとは、どのあたりで勉強が伸びるかはその子によるので、なんとも言えないところです。よく女の子のほうが成長が早いと言われますが、確かに小学校や中学校のころは女の子のほうができた気がします。

まとめ

中学受験は将来の収入に影響しない、という記事の元になった論文は、中学受験をした人と全国の一般的な大人を比べたもので、中学受験をしなかった人との比較ではありませんでした。論文自身もその点を限界として挙げています。

中学受験のない地方で育ち、高校に入ってから苦労した身としては、中学受験には収入だけでは測れないメリットがあると思っています。そのうえで、6年間同じ環境にいることのデメリットや、子どもによって伸びる時期が違うことも考えて選ぶものなんだろうなと思います。

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